
公式発表では米軍は、イラク市民の犠牲については詳しくカウントしていないということになっている。したがって、1年間あるいは1ヶ月にどのくらいの人が殺害されたり、傷を負ったりしたかという質問に対しては、ホワイトハウスの報道官は一切答えない。米兵については一人ずつ丁寧に説明するのと比べると対照的な態度をとっている。※
しかし、詳しくカウントしてないなんて考え難い。おかしいだろう?そう思っている人は多いはず。だから、11日のマクラッチー(米国内で31の日刊新聞を発行するメディアグループ。新聞発行部数でガネット、マクラッチー、トリビューンの順)のレポートにはちょっと注目だ。
米軍は過去1年間で検問所、近隣パトロール、護送において、429人のイラクの一般市民を殺害、または怪我を負わせてしまった。マクラッチー新聞社が手に入れたイラクで集計された軍の統計から分かった。
この統計は、市民に向けて発砲したことに関する開戦以来初の公式報告だ。武力衝突で死んだ何千人と比較すると小さくみえるが、米軍が市民を守るという誓いを十分に満たすことが難しいことを示している。
この数字は、軍がよぶ escalation-of-force incidents(力の使い方がエスカレートしたためにおこった事件)、つまり米軍が検問所に近ずきすぎたり、早くよってきすぎたりした市民を撃ったことに関するものだ。ここ数ヶ月、指揮官はより多くの兵を送り出してきた。表向きはイラク社会を守るということだが、統計はescalation-of-force incidentsによる事件がイラク人死亡者やけが人の急増につながっていることを示している。
国防総省は、繰り返し、米軍による市民の殺害、怪我の数はへっていると明かしてきた。しかし、escalation-of-force incidentsによる事件の統計がぺトレイアス・イラク連合軍司令官(駐留部隊のトップ)の最近のブリーフィングで出てきた。ブリーフィングに慣れている司令官がマクラッチーに提供してくれたのだ。
彼らは1年間で3,200回の警告射撃を市民に対し行い、そのうち、月平均36回当てている。つまり、1日1回以上だ。
この資料より前のデータは手に入れてないが、米当局はへっていると言う。
しかし、米軍の活動が活発である間、市民の犠牲が増えるというパターンは、マックラーチーにもたらされたこの統計から明らかだ。
例えば、昨年8月の犠牲者は26人だった。しかし、バグダッドに部隊を集中させた「Operation Forward Together」(昨年のバグダッドセキュリティ計画)をはじめた翌月は41人に増えている。
増派した今年2月は46人でここ1年で最悪だった。昨年の7月は22人と最低だった。
統計は武装勢力に対する、襲撃、捕獲、戦闘の最中で米軍が殺害してしまった市民を含まない。米軍がどうやってそのような情報を追っているのかこれまでのところ明らかにされていない。しばしば輪番の部隊が各々のやり方でやっているが、いくつかの事件で報告がないケースがあった。中でも最も知られているのが、イラク北部の町ハディーシャでの24人に対する誤射だ。
市民の犠牲は開戦以来イラクで物議をかもしだしてきた。いくつものチェックポイントでおこった血なまぐさい事件が、軍のバリケードの危険性について市民の関心を引いている。マリキ首相は昨年、米軍の活動によって引き起こされた損害について批判したが、何人かのアメリカの関係筋はそのようなことによる死者は反乱を煽ることになると思うと語っている。
2006年7月、Peter Chiarelli副司令官(駐留軍のNo.2)は、「2,3年前は私たちを打ち負かすと決めていたのに、今はどっちつかずか味方である人を抱えている。なぜそうなったのか?私たちたちが私たち自身の最悪の敵であるという多くの事例について議論するつもりだ」と、マクラッチーのインタビューに答えている。
彼はその後、国防総省上級軍事補佐官になったが、今年はじめ、昨年のすべてのescalation-of-force incidentsによる事件がもたらした、重症、死亡、1万ドル以上の物的損害について調査するよう命令を下した。それまでは、輪番の部隊が各々のやり方で調査していた。果たして、こういった調査は引き続き行われているのか不明だ。
イラクやアフガニスタン市民を擁護しているワシントンのグループ「Campaign for Innocent Victims in Conflict」(紛争における罪のない犠牲者のための運動)の、Sarah Holewinskiさんは、事件を調べるのに、ただ数だけ追えばいいってもんじゃないと主張する。
「彼らは犠牲者が減っているというが、なんら裏づけがあるわけじゃない。escalation-of-force incidentsによる事件がおこる前にどのような措置がとられたのか?どうやって犠牲者の数を減らしたのか?事件がおこってから、家族にどのようなことが降りかかったのか?」と。
米軍は伝統的に手ぶりや標示で止まるように指示している。しかし、止まってくれないと警告射撃をし、さらに近ずきすぎたり、早くよってきすぎたりすると殺害してもよいことになっている。
イラク市民は、一時しのぎのチェックポイントに加えて、予測できないパトロールや護送は、いつ米軍が自分たちの地域にやってくるのか、どう対処すればよいのかわかりづらいとずっとクレームをつけている。また、米軍は発砲に対して警告であろうがなかろうが即座に打ち返すが、それは相手を止めるためではなく、自分たちが逃げるためだと言っている。
Government Accountability Office(政府責任局)は、5月、イラクとアフガニスタンにおいて、軍がこれまでに約3,100万ドルの見舞金を死亡、怪我、物損に対して支払ったことを明らかにした。支払いの最高額は1人あるいは1物損に対して2,500ドルであり、このことは少なくとも12,400件に対して支払ったことを示している。
http://www.mcclatchydc.com/staff/nancy_youssef/story/17836.html
※とはいえ、彼らも抜けているところがあって、昨年11月に発表された超党派の議員によるイラク研究グループの報告では、敵の攻撃によって米軍の損害が出た場合についてはカウントしていても、損害がでなかった場合についてはカウントしていなかったことをあげ、これでは戦闘の実態を把握できないと批判していた。
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