
イラクの高等教育が崩壊の危機にあることは、すでに何度も報道されている。知識階層が標的にされていることは明らかで、大学に通うのも命がけの状態が続いている。
例えば、1月のムスタンシア大学の自動車爆弾で65人(ほとんどが女子学生)が殺害された際、サンフランシスコクロニクルは以下のような数字をあげている。
・イラクの高等教育省によると、2003年以来、暴徒や民兵に殺害された大学教員(あるいは研究者)が少なくとも280人にのぼり、3,250人がイラクを去っている。
・アメリカの有力シンクタンク、ブルッキングス研究所によると、米軍侵攻から4年弱で、教員の40%が去っている。
記者がバグダッドの大学に聞いたところでは、学生は身を守るために、休学したり、通学回数をへらしたり、自宅近郊の大学に編入したり、他国の大学に入学するといった安全策をとっている。これは本人の意思であったり、親の説得によるものだったりする。また、ある教員は研究室に押し入られたときに抵抗できるよう、古いアメリカ製の拳銃をしたためているという。
かつてイラクの高等教育は中東でもっとも優れたものだった。バグダッド大学など20の国立大学と、47のtechnical institute(たぶん工科大学)の授業料は無料だった。私学の場合、年間授業料が $114~$305 となる。とはいえ、この20年でサービスが著しく低下しているのだが。
http://www.sfgate.com/cgi-bin/article.cgi?file=/c/a/
2007/01/18/MNGFBNKFU91.DTL
UNAMI(国連イラク支援ミッション)の「人権報告2007/1~3」では、内容25ページ中、2ページに渡って教育部門の暴力沙汰を紹介している。例えばこんなかんじ。
・イラクの高等教育省によると、2003~2007年3月末の間、200人の教員(あるいは研究者)が殺害された。しかし、殺害をめぐる状況について多くはわかっていない(上の新聞記事と数字が違うが、こういうことは珍しくない)。
・また、同省によると、2003年4月以来、2007年3月末時点で約150人が監禁(拘留)されており、このうち何人かは、イラク政府関係機関、もしくは多国籍軍の管理下にある。UNAMIは現在この件について新たな情報を求めている。
・明らかに宗派の違いによる動機から、暗殺、誘拐、脅しが教員や研究者にむけられており、この3ヶ月、非常に危険な状態が続いている。UNAMIが確認したところ、少なくとも7件の暗殺があった。また、大学や研究機関にむけた攻撃が頻発しており、多数の学生が犠牲になっている。
・2006年11月14日におきた、Scholarship Department(研究局?)の誘拐事件では、職員、来客(研究者あるいは大学院生を含む)をあわせて約150人がどこかに連れ去れた。多くは翌日解放されたが、スンニ派とされる56人の職員は行方不明のまま。高等教育省の記録によると70人が行方不明である。
http://www.uniraq.org/FileLib/misc/HR%20Report%20Jan%20
Mar%202007%20EN.pdf
そして、先週、また新たな問題が明らかになった。これは今までのとは少し違う。大学入試でシーア派とスンニ派をめぐって不正が発覚。死ぬことはないが、学生にとっては死活問題である。
イラクでは国立大学に行きたい場合、Bakaloriaという最終試験を受けなければならない。今年は5万人が受験した。イスラムの歴史、アラビア語(国語)、英語、数学、物理、化学、生物学の7科目を課せられ、平均より50%以上得点することが条件になる。学生は答案をえんぴつで記入するが、バグダッドの採点センターにおいて、なんと教員が敵対する宗派の学生を名前から判断し、消しゴムで正答を消していたのだ。この件で、すでに6人(うちスンニ派4人、シーア派2人)の教員が解雇されている。
いかにもシーア派っぽい名前、スンニ派っぽい名前の人は、このご時勢、殺されたり嫌がらせをされないように、状況に応じて偽名を使うことがあるそうだが、まさかこんなところにもという感じだろう。
14のセンターのうち6つが、シーア派もしくはスンニ派が支配的であるが、高等教育省によると問題がおこったのは残りの8つのセンターだったという。すでに解雇されたシーア教員が調査官に語ったところによると、アダミーヤ(スンニ派が支配するバグダッドの一部地域)で息子が殺害されたため、その報復にスンニ派の学生の答案をいじったそうだ。しかし、学生にとっては知ったことではない。採点結果次第で、報復行動にでることを誓う学生の言葉がとりあげられている。
採点結果は通常、1週間以内に出されるが、高等教育省は目下、どのように対処すべきか検討中で、もしかすると学生が予想以上に点数が低すぎると感じた場合、再テストを認めることになるかもしれない。
http://www.telegraph.co.uk/news/main.jhtml?xml=/
news/2007/07/08/wirq308.xml
http://www.washingtontimes.com/article/20070710/
FOREIGN/107100055/1003
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