
イラク戦争5周年のブログアクションで、6種類あるバナー全てに「1 million dead」(100万人死亡)という数字がのっけてある。これは二つの世論調査(クラスター分析による統計調査)のことを言っている。
http://march19-blogswarm.blogspot.com/
1)イギリスの世論調査会社・オピニオンリサーチビジネス(ORB)が昨年9月(今年1月に改訂)に発表したもの。
2)アメリカのジョンズホプキンス大学、コロンビア大学、そしてイラクのムスタンシリア大学の合同チームが、2004年9月(2006年7月に改定)に医学誌『ランセット』に載せたものを元に、イラクボディーカウントのレートを加えてはじき出した現在の推定値。Just Foreign Policyがウェブパーツとして公開している。
*この他の推計も列記した。
1)オピニオンリサーチビジネス(ORB)の推計
Iraq Conflict Has Killed A Million Iraqis: Survey
(世論調査:イラクの戦闘で100万人が殺されている)
http://www.commondreams.org/archive/2008/01/31/6768/
イギリスの代表的な世論調査会社の一つが出した結果によると、2003年のアメリカが率いた侵攻以来、戦闘による結果で100万人以上のイラク人が亡くなっている。
オピニオンリサーチビジネス(ORB)が、成人2,414人に対して直接聞き取った。そのうち、20%が少なくとも家族のうちの一人を普通の理由ではなく、戦闘によって亡くしていることが分かった。
1997年に実施された(現在のところ)イラクで一番新しい全数調査によると、この国には405万世帯が暮らしている。これを元に計算すると、おおよそ103万人が戦闘の結果亡くなったことになる。
調査は2007年8~9月に実施。許容誤差は1.7%。946,258~112万人の範囲。
最初は、120万人死亡という数字が出たがやり直しを決断。可能な限り包括的なものとなるよう田舎での調査を追加し、改訂版を出した。
調査はイラク18県あるうちの15を対象とした。最も不安定な2県、すなわちカルバラとアンバールは含まれない。また、北部のアルビルも地方自治体が許可しなかったため含まれない。
イラク人の死亡者数推計は、以前から大きな論争になっている。
医学雑誌『ランセット』が2004年に発行し、同業者の論評の対象となったレポートによると、抗議の嵐の幕開けとなった2003年の侵攻以来、従来予想されていた数字よりも10万人多いと述べている。
幅広く閲覧されているウェブサイト、『イラクボディーカウント』の直近の予想によると、80,699~88,126人が戦闘により亡くなっている。 しかし、その手法や数字については、アメリカの当局などが疑問視している。
ORBは、1994年創立。政府からは補助金をもらっていない。民間、公共、ボランティア分野からの調査を請け負っている。
グループの取締役、Allan Hyde氏は、侵攻とそれに続く戦闘によってもたらされたイラクの人口に占める死者数を、できる限り正確に記録する以外の目的はないと言っている。
ORB(この件に関して、概要、統計資料、エピソードが公開されている)
http://www.opinion.co.uk/Newsroom_details.aspx?NewsId=78
http://www.opinion.co.uk/Newsroom_details.aspx?NewsId=88
■
ところで、ここでいう戦闘とは、紛争や暴力沙汰としてもいい。とにかくそれが元で射殺されるとか、巻き添えを食らって爆死するとか、大怪我した末に亡くなると、カウントされるようだ。
また、「アメリカの当局などが疑問視している」とは、二つの意味がある。
一つは、そんなに多くないというもの。
上の記事はロイター通信が発信したものだが、例えばバグダッドで爆弾爆発、多数が殺されるといった痛ましい事件が起こると、ロイターの記事は、まず地元(病院、イラク警察など)が出した推計または確定数を載せる。そのあと、米軍発表を載せるというパターンが多い。両者の数字もパターン化しており、米軍の方が地元発表より小さい。
イラクボディーカウントの数字の出し方は極めて単純だ(しかし、忍耐力がいる)。英語で書かれた何十もの報道機関が出した記事から、民間人の殺害者数を毎日丹念に拾い集め、最小値と最大値を出している。抽出元はHPで公開されている。一方、米軍のは、イラクボディーカウントに言わせると、ときどき詳細が不明(Appendix/Comment on alternative totalsのところ) 。
http://www.iraqbodycount.org/analysis/numbers/2007/
もうひとつ(もっともアメリカ当局よりも、「など」が疑問視しているのだが)は、そんなに少なくはないというもの。
イラクボディーカウントは、英語の記事では「conservative」とよく形容されている。控えめという意味。それは、ジャーナリストの取材範囲が非常に限定されており、不安定な地域や、同じ地域でも戦闘が激しくなると手薄にならざるをえないから。また、役所が機能していないので、病死ですらどこで、誰が、どのくらい、どのような理由で亡くなったのかが分からないからだ。このような不完全さはイラクボディーカウント自身が了解していることである。
2)Just Foreign Policyのウェブパーツ

2006年7月発表のランセットの改訂版では、 426,000~794,000人が死亡としている。この中間値=601,000に、イラクボディーカウントのレートを掛け合わせる。すなわち、
Just Foreign Policy推定値 = 2006年7月のランセットの推定値 × ( いま現在のイラクボディーカウントの中間値 / イラクボディーカウントの2006年7月1日の中間値 )
http://www.justforeignpolicy.org/iraq/counterexplanation.html
2008年3月5日、8:00現在、1,173,743人となっている。
もっとも、ランセットとイラクボディーカウントでは、そもそも集計の仕方が違う。イラクボディーカウントはあくまで民間人と思われるイラク人のみを集計している。しかし、ランセットは戦闘員も含んでいるようだ。
ランセットの論文は超有名。ただ、妥当性については賛否両論ある。
メディアの取り上げ方についても議論をよんでいる。調査を指揮したレス・ロバーツ博士がほとんど同じやり方で2000年に行ったコンゴ民主共和国の内戦による死亡率調査において、米英のメディアは凄惨だが信頼できる数字としてこぞってとりあげた。一方、こちらについては政治家と一緒になって批判している。この変容ぶりはおかしいと分析するレポートが見られる。
BURYING THE LANCET - PART 2(medialens:2005/9/6)
http://www.medialens.org/alerts/05/050906_burying_the_lancet_part2.php
このウェブパーツは英語圏のブログで人気がある。ブログパーツとして簡単に貼り付けられるのがウケているのだろうが、日本ではマスコミで取り上げられることが少ないため知名度が低い。とはいえ、英語圏のメディアでもイラクボディーカウントは必須単語になっているが、こちらはマイナー。なお、イラクボディーカウントも昨年よりブログパーツに改良され、手軽に利用できるようになった。
Just Foreign Policyのウェブパーツ
http://www.justforeignpolicy.org/iraq/iraqdeaths.html
イラクボディーカウントのウェブパーツ
http://www.iraqbodycount.org/contribute/educate/instructions/col-128x128
ランセット論文(2004年9月発表)
http://www.zmag.org/lancet.pdf
日本語による解説・要訳
http://www.jca.apc.org/stopUSwar/Iraq/lancet04oct.htm
ランセット論文改訂版(2006年7月発表)
http://www.thelancet.com/webfiles/images/journals/lancet/
s0140673606694919.pdf
*この他の推計
イラク戦争の民間人死者数、3年間で15万人超=WHO(ロイター:2008/1/10)
イラク戦争開始以降で最も包括的な内容となる今回の調査では、2003年3月─2006年6月の死者数は10万4000─22万3000人になる可能性があるとしている。
http://320aikotoba.blog46.fc2.com/blog-entry-32.html
イラクの現状は「緊急事態」 にある (ファクトシート)(日本国際ボランティアセンター:2006/12/16)
米国議会調査部(CRS)の公開資料を引用。イラクボディーカウント、イラクカジュアルティーカウント、イラク保健省大臣、ブルッキングス研究所イラク指標累積推計、ランセットの2003年論文、国連イラク支援ミッション(UNAMI)がそれぞれが発表した累積死者数と調査期間を比較。
http://www.jim-net.net/DATA/06data/061218fact_sheet1.pdf
スポンサーサイト