
そもそもアルカイダはよーわからん
イギリスの連続テロで、アルカイダがクローズアップされている。イラクのニュースでもアルカイダの名前が出てこない日はない。でも、どうもよくわからない。
1)ニュースにアルカイダが登場した当初、組織ではなく中心を持たないゆるやかなネットワークとする解説をよく目にした。しかし、昨今、パレスチナのハマスとか、北アイルランドのIRAのようなピラミッド型の一般的な武装組織であるかのような伝えられ方がされて久しい。いったいどっちなんだ?
3)イラクのアルカイダは、イスラム的世界拡大のための反米武装組織や個人のアイデンティティであって、自称アルカイダが多いんじゃないのか?
4)イラクに外国のイスラム戦士を集めるには金がいるが、その出所はどこなんだろう?出資者はビン・ラディンやアイマン・アルザワヒリなのか、それとも彼らとつながっている有力者なのか?
5)ビン・ラディンはCIAのエージェントだとか、アルカイダは冷戦のときのように世界に緊張をもたらすことでアメリカの政治的経済的地位を強固するためにあるフィクションだとする噂は絶えないんですが・・・。
アルビールは大学の玄関口
上のような疑問はなかなかいっぺんには解けないだろう。網を大きく張って、小さな手がかりを集めることでだんだん分かってくるものだと思う。
そういう意味で、イギリスの連続テロがおこるちょっと前に米CBSが流した「イラクはテロリストの大学か?」と題する2分半のニュースは、なかなかのもんかもしれない。
http://www.cbsnews.com/sections/i_video/main500251.shtml?id=2969895n
イラクでは米軍がアルカイダの牙城に圧力をかけているが、当局はアルカイダのトップミリタリーはすでに逃亡したと結論づけている。また、情報機関によると、アルカイダはイラクを脱出し、戦闘範囲をヨーロッパや湾岸諸国にすでに拡大しているという考えだ。
5月、アルカイダのナンバー2、アイマン・アルザワヒリは、戦士にイラクの外でテロを実行するよう促す声明文をだした。
イラクのアルカイダ戦士の生き残りは、世界で最も厳しいゲリラ戦で世界1の軍隊を相手にした優秀な戦士だ。グローバルテロリズムの脅威を研究している専門家、トム・アンダーソンは、「もし生き残ったら、何でもできるということですね」と分析している。
ある武装闘争のリーダーは音声をインターネットに投稿しているが、彼によると、もしアフガニスタンがテロの学校なら、イラクは大学という位置づけだ。
イラクでは、実践で爆弾の作り方、攻撃の仕方、逃げ方、安全な場所の確保の仕方などを学ぶことができる。
イラクの周辺諸国を移動することは簡単である。とはいえ、情報機関の関係者が言うには、米軍の圧力がきいているため、最近はシリアから入国するルートの大部分は閉じられている(アメリカ政府はアルカイダ戦士はシリアを経てイラクに入ると、シリア政府を批難し続けている)。そのため、ヨーロッパから直行でイラク北部(アルビール)に飛行機で入って、生き残った者はヨーロッパ近郊、ヨーロッパ、北アフリカに出国しているという。
結果として彼らの影響範囲は拡大する。レバノンでは、イラクの戦闘を経験したアルカイダの生き残りが1ヶ月に渡り米軍をレバノンのスペシャルフォースに寄せ付けなかったし、アルジェリアでは地元のテロリストがアルカイダのやり方を「輸入」したテロを実行した。アメリカの情報機関はアルジェリアをヨーロッパの「玄関口」と呼んでいる。
フランスの情報機関と技術者は、フランスの空港からイラクへ飛び立ったと知られている30人の行方を追った。12人は死亡、12人以上は拘留中、しかし残りはどうなったか、どこへ行ったか分からないという。
ともあれ、こういう人たちが次世代のテロリストの一躍を担うだろう。トレーニングを積み、多くを破壊し、ある者はイラクから世界へうってでるかもしれない。
活況を呈するアルビール
アルビールは、クルド自治区(クルド人自治区、イラククルディスタンともいう)の1県であり、県都はアルビール市。クルド自治区の首都で、99万人を擁する自治区最大の都市である(イラク全土では4番目に大きい)。
現在アルビール空港には、ウィーン、ドバイ、イスタンブールから定期便が就航しており、地元の航空会社は、ロンドン、ブリュッセル、アムステルダム、ベルリンに路線を拡大する計画をたてている。チャーター便では、アルビールとストックホルムやフランクフルトを結ぶ便がある。ちなみに、スライマーニーヤ市近郊にも空港があって、Zozik Air が、2006年中ごろよりミュンヘンに定期便を飛ばしている。
ヨーロッパの航空会社でイラクに定期便をもっているのはオーストリア航空だけだ。とすると、CBSのレポートの「フランスの空港からイラクへ」というのは、オーストリア航空でパリ発ウィーン経由アルビールというのが最も容易い。この航空会社は、2006年12月より路線開設、2週間ごとに月曜日と金曜日に1便ずつ往復便を運行中のようだ。ビジネスマン、在外クルド人、観光客を主な顧客にあてこんでいる。
http://www.aua.com/jp/jpn/austrian/network/
私はアールビル市というと人口は多いけれど寂れた感じと思っていたが、違ってきたらしい。なんといっても、ここはイラクのほかの都市に比べてかなり治安がよいのだ。7月1日のAFP通信は、アルビールの経済がいま活況を呈していることをレポートしている。政治家も外資もアラブ首長国連邦のドバイのような経済都市を目指しているのだという。高層ホテル、マンション、ショッピングモールが建設ラッシュで、自動車爆弾の変わりにブルドーザーが街を轟かさせている。新規外資には10年間の法人税無料、100%出資子会社の設立や全利益の本国送金まで認められているという好条件にひかれてトルコ系企業を中心に600以上の外資が参入している。
イラクには15の空港があるが、アルビール国際空港はイラク唯一の民間専用空港である。そこに、3兆円以上をかけてリニューアルする計画があがっている。公式HP(トップページのみだけれど)に掲載されているターミナル棟とおぼしき完成予想図は現代的で美しい。4500m級の第3滑走路を建設するというから、これならまじでスペースシャトルでも着陸可能。
もっとも、本当にこんな立派なのがいるのか疑問だ。例えば関空は3,500mの滑走路一本しかない。8月2日共用開始予定の第2滑走路でも4,000m。成田でも、4000mの滑走路と2180mの滑走路の2つ(こっちは経済規模からするとショボイんだよな)。
http://www.erbilairport.net/
http://www.city.kobe.jp/cityoffice/06/012/kanku/index.html
http://www.narita-airport.jp/jp/fun/airport/tour_overall.html
アルビールの平均所得は月400ドルにすぎない。生活用品の価格は上昇するばかり。一般庶民は副業をもたなければ生活をやっていけない。この落差は大きい。
しかしともあれ、安全であることはよいことだ。バグダッドの空港はというと、これはもうたいへんである。バグダッド空港はイラクにおける米軍最大の基地の一角を担っているので、乗客に対するセキュリティーチェックは厳重。加えて、飛行機の離陸は迫撃砲の攻撃をさけるため急上昇を余儀なくされている。イラク航空とロイヤルヨルダン航空が定期便を就航しているが、イラク航空の取締役によると、バグダッド発便は満席か2/3は詰まっているのに対して、バグダッド行便はたいがい半分以下になるという(2006年末)。バグダッドは住民にとってもアルカイダにとっても危険なのだ。
ということは、つまり、アルビールは治安がよいために、アクセスがよく、警戒もゆるいのであって、それがビジネスマンらを招き入れ、同時にアルカイダも入ってくるということだ。なんとも皮肉な話である。
http://www.usatoday.com/news/world/iraq/2007-01-04-iraq-air-travel_x.htm
http://www.dancewithshadows.com/flights/austrian-airlines-iraq.asp
http://uk.news.yahoo.com/afp/20070701/tbs-iraq-kurdistan-oil-economy-f41e315.html
イラクは18の県で構成されているが、そのうち北部の3つがクルド自治区(アルビール県、ダフーク県、スライマーニーヤ県)で、湾岸戦争後の1991年に事実上の自治を獲得している。この3県の真南の、ディヤーラー県、キルクーク県、ニーナワー県は勢力圏にあり、現イラク憲法では、今年11月までにこれらの県で住民投票をして帰属を決めることになっている。
http://en.wikipedia.org/wiki/Iraqi_Kurdistan#Governorates
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%A9%E3%82%AF#.E5.9C.B0.E6.96.B9.E8.A1.8C.E6.94.BF.E5.8C.BA.E5.88.86
注目されるのはキルクーク県で、実際にやるとクルド自治区に編入されることは確実である一方、クルド人、アラブ人、トルコ系住民の間で流血の事態に発展するとともに、自国内のクルド人を勢いづかせ国家分裂の危機に直面するトルコがクルド自治区に軍事介入することが予想される。キルクークは北部イラクの石油工業の中心であり、石油収入の国家分配においてもマリキ政権にとっては厳しい選択を迫られることになる。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070415-00000015-san-int
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